想定外に対処するためにはどうすれば良いのか? 『東芝解体 電機メーカーが消える日』大西 康之 著
今日の読書日記は、『東芝解体 電機メーカーが消える日』から、「想定外」に対処する方法について。
シャープの堺工場とパナソニックの尼崎工場は、第二次世界大戦時に日本軍が建造した戦艦、大和と武蔵によく似ている。
日本の軍事技術の粋を集めた大和、武蔵は史上最大の戦艦であり、強力な主砲を備えていた。
しかし真珠湾攻撃で日本の戦闘機に戦艦を沈められた米国は大鑑巨砲のもろさを学び、その後は装備の主眼を航空戦に置いた。
そして航空機を戦場に運ぶための空母を大量に建造した。
大洋で艦隊と艦隊が向き合う海戦が展開されることはなく、大和と武蔵は自慢の主砲を満足に使う間も無く、海の藻屑と散った。
資源が乏しい日本は短期決戦を望み、大鑑巨砲で一気に決着をつけようとした。
しかしそれは日本の願望でしかなく、実際の戦局は長引いた。
見たいものだけを見る。戦況が自分たちの思うとおりに進むと思い込み、想定外の状況に対処しようと言えば「腰抜け」と非難された。
軍備は一点豪華主義で戦略性を欠き、高性能レーダーや航空機を駆使する連合軍の新しい戦争に太刀打ちできなかったのである。
シャープとパナソニックが社運をかけて世界最大のパネル工場を建設した2000年代初頭、デジタルの主戦場はすでにテレビからインターネットに移っていた。
居間でテレビを囲んでいた人々は、スマホで動画をみたりツイッターやフェイスブックやLINEを使ったりするようになっていた。
堺工場と尼崎工場はついに一度もフル稼働することなく、敗戦を迎えた。高精細のパネルを安く大量に作る戦術は、開戦前からすでに時代遅れだった。
アップルに対抗したのは米ネット大手のグーグルだった。スマホ用OSのAndroidを開発し、韓国のサムスン電子や中国メーカーが安いスマホを作って世界中で売り出した。
世界のスマホ市場は「iPhone 対 Android 端末」の様相を呈し、NTTドコモの「iモード」に固執していた日本の電機メーカーはあっと言う間に時代から取り残された。
スマホ革命の最中、シャープやパナソニックは国内で高精細と大画面化を競う不毛な競争を続けていた。
その象徴が堺工場と尼崎工場である。相手がレーダーを駆使した航空戦を仕掛けてきたのに、それを大鑑巨砲で迎え撃とうとしたのだ。
日本の電機産業の失敗の本質はそこにある。
日本では「退路を断つ」という言葉が肯定的に使われる。「逃げることなど考えず、勝利を信じて突き進め」という玉砕戦法が「潔い」と評価される。
だが株主や従業員、取引先の身になって考えれば、退路を断ってもらっては困る。泥水をすすってでも生き延びてもらわないと、多くのステークホルダーが不利益を被る。
〈今日のコンテンツ〉
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1. 見たくないものを直視する
2. 逃げ道を用意する
3. まとめ
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1. 見たくないものを直視する
この本は元日経新聞の記者をされていたジャーナリストである著者が、日本の電機メーカー各社が衰退した原因について述べたものです。取り上げられている会社は、東芝、NEC、シャープ、ソニー、パナソニック、日立製作所、三菱電機、富士通の8社です。
ざっくりと要旨をまとめてみると以下のようなところでしょうか。
元々、上記の電機メーカーのうちの多くが、「電力ファミリー」や、「電電ファミリー」と呼ばれるグループに所属しており、東京電力やNTTなどの企業と非常に密接な関係を築いていました。
そして、これらの電力会社や通信会社からの設備投資の要求に応えるだけで、利益を上げることができていました。
ところが、東西冷戦の終了後、米国からの外圧が強くなり、通信自由化と電力自由化が始まります。
すると、電気料金や電話料金などの価格競争が本格化し、電力会社や通信会社は設備投資を抑制します。
そのあおりをもろに受けて、「電力ファミリー」や「電電ファミリー」に所属していた電機メーカー各社は売上が激減しました。そして今までファミリーとして庇護されていたため、海外企業に対する競争力も磨かれておらず、全滅することになった、と。
各社に共通する総論はここまでで、この後、この本では、各企業のこれまでの経緯と衰退の原因に対する分析が続いていきます。
衰退の原因に対する分析は行われていますが、この本を手に取る読者が最も知りたいであろう、
「では、これからどうしていくのが良いのか?」
という「未来への展望」の部分はあまり述べられていないのが残念なところです。
しかし、我が身を振り返って、
「果たして、自分自身は人の意見を批判するだけでなく、代案もセットで出せているか?」
を考えると、とても胸を張って「できている」とは言えないので、これは気を付けていきたいところです。
前振りが長くなってしまいましたが、今回引用した箇所、日本の電機産業の失敗を戦時中の「大艦巨砲主義」の失敗に例えているのは面白いと思います。
そして「見たいものだけを見る」、という「希望的観測」の姿勢から、結果として列強の後塵を拝することになった、という経緯は非常に示唆に富んでいます。
私たちは何かの新しい行動を始める時に「うまくいったらいいな」と思って行動します。最初から「絶対、失敗してやる!」と意気込んで行動する人は少数派でしょう。
もちろん、「うまくいってほしい」と思って行動するのは良いのですが、「もし、うまくいかなかった時は、どうするのか?」を普段、どれくらい突き詰めて考えられているでしょうか。
「想定外」に備える「代案」を常に用意できているでしょうか。
「こんなこともあろうかと思って」
を複数用意できていると、不安を軽減した状態で行動を始めることができます。
それは、「気づいてはいるけれども、見ないふりをしているもの」をまじまじと見つめてみる、ということでもあります。
目をそらさないであらかじめ向き合っておく、ということです。
これははっきり言ってかなりのエネルギーを要する作業です。
ですが、「うまくいかなかった時」のことにきちんと向き合っておかないと、失敗した場合のリカバリーが遅くなりますし、「消火活動」にも、より大きな労力とコストを必要とすることになるでしょう。
2. 逃げ道を用意する
今回引用した中ではもう1つ、「退路を断つ」ことが肯定的に使われた、という部分が気になりました。
確かに、「背水の陣」という決死の覚悟で事に臨むことで、「窮鼠猫を噛む」ような尋常ならざる力を発揮できる、ということもあるでしょう。
ですが、そのようなあり方は、本当にベストなのでしょうか。
本来であれば、余裕を持って対応できる状態の方が望ましいはずです。
他にも、よく「社運を賭けて」この新事業に取り組む、と言ったりする事があります。
これも、そもそもの問題として、もし、その事業が失敗に終わった場合に、会社が潰れてしまうような取り組みを行うようではダメだろう、ということになります。
「神風特攻隊」のような「捨て身の戦法」は、美化されてはいけないのです。
であるならば、どうすれば良いのでしょうか。
答えは、「常に逃げ道を確保しておく」ということになるでしょう。
手持ちのカードの数、と言い換えてもよいと思います。
今、克服したい問題を解決するためにできる打ち手には何があるか?
それらを書き出して数えてみると良いでしょう。
その打ち手のカードの数が多いほど、落ち着いた状態で、淡々と行動に向かう事ができるはずです。
用意した「代替案」、「逃げ道」の数に比例して、安心と余裕の量も増えていくでしょう。
それを考えておかないと、いざという時に困って慌ててしまうことになります。
そして、そんな代替案を考えるためには、望まない結果が起こった時にどうするのか、つまり、「見たくないものを凝視してやる」ことは避けられないのだと思います。
3. まとめ
・「想定外」に対する代替案を用意するためには、
「見たくないもの」を見つめてやらなければならない
・「退路を断つ」「社運を賭ける」「捨て身の」取り組みは美化されるものではない
・あらかじめ逃げ道を複数用意しておく事が、行動時における安心と余裕を生む
〈今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート〉
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1.この本を読んだ目的、ねらい
・日本の電機メーカー各社のおかれた現状と
これから取るべき進路をまなぶ
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・電電ファミリーと電力ファミリーに支えられていた構造の崩壊が、電機メーカー衰退の原因である、
という説明は分かりやすかった
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・見たくない問題を見つめてどうするかを考えみる
・行動のまえに複数の代替案を用意しておく
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・自分の問題点と向き合い、
それを言葉で正確に言い表すことができるように
なっている
・取り組みに対する打ち手の数が瞬時に最低10個は
思いつくようになっている
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