感性を磨くには?『非常識な本質』水野和敏 著
僕は、独自の思考のマップを持っています。これが科学的に証明されているかどうかはともかく、僕の経験から考え出した単純なイメージです。
人間の脳の60パーセントは言葉で思考していますが、残りの40パーセントは「言葉にならない完成」(画像、動き、現象など)で想像しているのではないか――。
そんなイメージです。
僕は、レースはもちろん、クルマの設計においても世界と闘ってきました。そこで気づいたのは、世界のトップは感性で勝負しているということです。
考えてもみてください。知識がいくらあっても、所詮コンピュータには勝てません。いくら学校の勉強ができたからって、革新的なものが生みだせる保証はどこにもないのです。
むしろ、覚えたこと――つまり過去の情報だけでつくっていることになります。
では、コンピュータにできず、人間にできることとは何か?
記憶と知識を感性と想像の力によってありもしない未来を創造する――
人間の強みはそこにあるのです。
感性を鍛えるのは大切です。
しかし、もちろんそればかりでは結果をつくり出せません。
イノベーションは、圧倒的な知識の蓄えがあってこそ精度が上がり、感性によって花開きます。
ほとんどの人は、好きな会社に入って、好きな仕事をすることが夢の実現に近づくと思っています。
しかし、それで成功したためしなんてありません。
なぜか?
簡単なんです。
仕事や商品というのは、本来なら人の幸せのためにあるものなのに、自分の喜びのために自分の好きなことを他人に押し付けて成功したためしがあるわけがない。
自分の好きなことをやって、自分の夢が実現できたら、それは仕事ではなくて趣味です。だから逆に、お金を会社に払わなきゃいけない。
では、なぜ給料がもらえるかというと、お客様のために自分が苦しむからです。
こんな当たり前のことが、みんな方程式としてわかっていない。
「すべてはお客様のために」がキーワードで、自分のポジション、自分の給料、自分の名誉を忘れろと。
そのスケールで仕事に挑むことが、ワンマンにならない第1ポイントです。
僕は、世の中の人たちや顧客が漠然と抱いている夢や願望のことをアウタースケール、会社や組織、業界など身内にしか通用しない内輪の論理をインナースケールと呼んでいます。
もちろん、仕事の指針として大事なのはアウタースケールの視点です。
逆にインナースケールは、僕がよく言っている「思考の盲点」を生みやすい。
日頃、目の前の仕事に従事していると、ついアウタースケールの視点を見失いがちです。
そんなとき、どうするべきか?
すべての答えは、「お客様のために」という視点に立つと明確に見えてきます。つねに自分が何をすべきなのかを教えてくれるのはお客様だということを忘れてはいけません。
〈今日のコンテンツ〉
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1. この本はどんな本か?
2. 感性と想像力
3. アウタースケールとインナースケール
4. まとめ
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1. この本はどんな本か?
日本が誇るスーパーカーの一つ、日産GT-Rの元開発責任者で、「ミスター・GT-R」と呼ばれた著者による仕事論が書かれた本です。
世界から認められた日産GT-Rはどのような考え方と行動によって作られたのかが、それに到るまでの豊富なエピソードと共に語られています。
タイトル通り、他の人から見ると「非常識」にも思える考え方ややり方を貫いて、それで結果を出してしまうというのが凄い所です。
引用した箇所以外では、
・自分のための仕事の目標なんていらない。僕の仕事の目標は、お客様の喜びだけ
・仕事の根本は自分の仕事に対するプライドであり、目標のすごさに対するトキメキである
・人は死ぬために生きている
いつ死んでも悔いは残さない、そのために生きよう
といったところが印象に残りました。
2. 感性と想像力
常識的な考え方をしていては見つからない物事の「本質」は「感性」を磨いて想像力を働かせることで見えてくる 、と著者は言います。
「感性」とは、画像、動き、現象など、経験や空想によって培われたもの、だそうです。
その対になる言葉として、「知識」とは、言葉、数字、グラフ、解析、学校の教育、会社の規律、ハウツー本から得られるもの、だそうです。
「知識」は、本から学んだり、人から教わったりすること身につけることができますね。
では、「感性」はどうやって養えばよいのでしょうか?
こうやれば身につく、とはっきりと本書の中で説明されているわけではありませんが、著者は小学生時代、小学校への行き帰りの道(片道40~50分)を一人で空想にふけっていたそうです。
また、社会人になってから海外出張に行く時も、移動は必ず一人で、どこのホテルに泊まっているかも関係者に教えなかったといいます。
その理由として、他人と一緒にいると、自分の想像と思考が止まってしまうから、だそうです。
外国でたった一人の異邦人になるからこそ、言葉にできない感性が働くのだそうです。
上記2つの事例から考えると、私たちが、自身の感性を磨くための方法は、「一人で、非日常空間に身をゆだねること」と言えるのではないかと思います。
空想の世界だって非日常空間です。一人旅はこれ以上ないくらい、そのまま非日常空間ですね。もちろん、面白い小説を夢中になって読んでいる時だって非日常空間に没入していることになります。
さらに最近だと、VR(Virtual Reality:仮想現実)を体験することも非日常と言えるでしょう。
ただし、VRの場合は、例えばVRのゲームをやりこむなどして、その感覚に「慣れて」しまうと、それはもう「非日常」ではなくなってしまうと思います。VRに限らず、「慣れ」という観点は感性を磨き続ける上で気をつけておきたいところです。
ですから、私たちが感性を磨き続けるためには、「常に」自分にとって新しい体験・経験を追い求めていく必要がある、ということになります。
つまり、感性を磨くためには「ミーハー」であることが望ましいということですね。
具体的な取り組みとして、例えば、ライフネット生命保険の創業者で、現立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏は「人・本・旅」の3つが人間が賢くなるために必要だと述べられています。
新しい人に会って話すこと、本を読むこと、旅をすること。これらはそのまま、自分にとっての「非日常体験」であり、そして「感性」を磨くということにもつながっています。
また、個人的な取り組みとして、1日にひとつ、新しいことに取り組む「1日1新」を掲げられていらっしゃる方もいたりしますね。
意図的に新しい経験をする、というのは、いきなり「海外に一人旅に行く」とか、そこまでハードルを上げなくても始めていくことが可能です。例えば、お昼ご飯に、いつものお店で食べたことのないメニューを注文してみる、とか、帰宅時にいつもと違う帰り道で帰ってみる、とか。
そのような小さなことの積み重ね、繰り返しの中で感じるいつもと違うことに対する「違和感」を大切にしていくことで「感性」のアンテナの感度が高まっていくのだと思います。
「感性」のアンテナの感度を高めて、物事の「小さな差」に気がつけるようになると、その裏に潜む「本質」にも近づくことができるのだと思います。
3. アウタースケールとインナースケール
今回引用した中で、仕事をしていく上で大切な考え方として、「アウタースケール」と「インナースケール」という言葉が説明されています。
今、私たちが取り組んでいる仕事が、「外向き」のものか、それとも「内向き」のものかは、日々、振り返るようにしておきたいところです。
顧客視点に立って考える、などと言ったりもしますが、実際のところは、社内会議のための資料作成や雑務などに忙殺されて、つい忘れがちになってしまいます。
お客様への貢献につながらない仕事=付加価値を高めない仕事=利益を生み出さない仕事は極力、排除していくのが望ましいでしょう。
これを個人で、そしてチームで意識することができれば、仕事の生産性も見違えるほど改善されていくことになります。
アウタースケールとインナースケールを意識するためには、自分やチームの一日の仕事を棚卸して、それは「アウタースケール」の仕事か、それとも「インナースケール」の仕事か、を見直すようにするのが良いでしょう。
理想は完全にお客様の方を向いた仕事だけにしていくことです。つまり、「アウタースケール」の仕事100%を目指していく、ということになります。
「どうすればお客様に喜んでもらえるのか?」を考えるには想像力が必要です。結局、お客様に喜んでもらおうと思ったら、「感性」を磨き続けるしかありません。
念のため、「会社(組織)のために」というのと、「お客様のために」というのは方向が異なるので混同しないように注意が必要です。
「お客様のために身を粉(こ)にして頑張る」というのと、「会社(組織)のために身を粉にして頑張る」というのでは、向いている矢印の方向が明確に違います。
「会社(組織)のために頑張る」というのはインナースケールの仕事です。その努力が社内や組織内で認められたとしても、「作っても売れない」という商品が出来上がってしまうことがあります。その結果、何のために苦労しているのか分からなくなり、仕事に対するモチベーションも下がってしまう、ということも起こりがちです。
一方、「お客様のために頑張る」というのが、アウタースケールの仕事です。市場の評価は大抵の場合、シビアなものだと思います。それでも、「感性」を磨き続け、圧倒的な「知識」を蓄え、市場のお客様の声に熱心に耳を傾け、さらに市場に問い続けることができたなら、今以上の成功が待っています。
結局のところ、「感性」と「知識」は車の両輪であり、共にバーションアップさせていかなければならないということになります。それは運転席に座るお客様の幸せと、助手席に座る私たちの幸せの両方にもリンクしているのです。
4. まとめ
・私たちが感性を磨くためには、一人で、非日常空間に身をゆだねること
・ 自分やチームの仕事が、お客様のための「アウタースケール」のものに
なっているかを見直していこう
・磨き抜かれた感性と圧倒的な知識からお客様を感動させるイノベーションが
生まれる
〈今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート〉
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1.この本を読んだ目的、ねらい
・自分の中にない考え方を取り入れる
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・死ぬために生きる、という考え方を学んだ
・自分のしごとが「お客様のため」のものになっているか、
見直すきっかけを得た
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・日々の仕事を振り返り、お客様のためになっているかを
考え抜き、修正していく
・1日1新を取り入れて感性を磨く
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・常に顧客視点の、本質に迫る思考や行動が
無意識的に行えるようになっている
・感性のアンテナの感度に一目置かれるようになるとともに、
知識量においても他を軽く凌駕するものになっている
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