読書尚友

先人の叡智を自分の行動に落とし込んで、成長と成果に変えていくブログ。焼きたてのトーストにバターを塗るように、日々の学びを薄く薄く伸ばして染み込ませてゆく

経済成長が必要な理由は?『「年収6割でも週休4日」という生き方』 ビル・トッテン 著

仮に私があなたに100万円を貸したら、私はあなたから返してもらうまでその100万円を使うことはできません。つまり、私は100万円分の購買力をあなたに渡したことになります。

 

しかし、銀行があなたに100万円を貸し付ける場合はどうでしょう。彼らはいわば何もないところから100万円をつくることができるために、購買力を減らすことなくあなたに100万円を融通することができます。

 

経済学ではこれを「信用創造」と呼び、貸し出しによってマネーサプライ(通貨供給量)を増やすことを銀行の重要な機能のひとつだと教えています。

 

何もないところから100万円を作る、つまり「信用創造」とはどういうことでしょうか。

 

銀行は個人や企業から預金として預かったお金の一部を準備預金として中央銀行(日銀)に預けることが義務づけられています。

 

預金として預かったお金のうちどれだけの割合を日銀に預けるかは、預金の種類(定期預金、普通預金など)と預かっている預金の規模によって決められています。その割合を預金準備率といいます。

 

たとえば、預金準備率が1%の場合を考えてみましょう。

 

Xさんから100万円を預かったA銀行はそのうちの1万円を日銀に預け、残りの99万円は別の人に貸し出すことができます。この99万円をYさんが借りるとします。A銀行はB銀行にあるYさんの預金口座に99万円を振り込みます。

 

B銀行はYさんの預金99万円から1%を差し引いた残りの金額(約98万円)を、別の人に貸し出すことができます。これが繰り返されていくと、A銀行が最初に預かった100万円で銀行全体としては最大で1億円まで貸し出しすることができる計算になります。

 

これが銀行が新しく作ったお金であり、このメカニズムこそが「信用創造」と呼ばれるものなのです。「銀行はいつでも預金の払い戻しに応じてくれる」という信用が基になっていることから、そう呼ばれます。

 

 

経済はなぜ毎年成長をしなければならないか、経済成長率になぜみんなが一喜一憂するのか、あなたは疑問に思ったことがないでしょうか。

 

その答えは簡単です。社会に流通するお金の80~90%が貸し付けを通じて作られたお金であり、そのお金を借りた人(または企業)は利子をつけて返済しなければなりません。そのため経済は利子分だけつねに成長しなければならないのです。

 

そしてこの利子分は、実体経済における製品やサービスとは関係のないお金であり国民の健康や幸福を増やすわけではありません。

 

 

〈今日のコンテンツ〉

ーーーーーーーーーーーーーーーー

1. この本はどんな本か?

2. 持続的な経済成長

3. 国の借金をどうするか

4. まとめ

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1. この本はどんな本か?

 

著者は40年以上日本に在住するソフトウェア販売会社の経営者であり、日本国籍を取得されている方です。

 

タイトルだけを見ると、お金ではなく心の豊かさを求めるライフスタイルを提案している本であるかのように思われます。私もそれに興味を引かれて本書を手に取りました。

 

実際、本書の第1部では、自宅のテニスコートを家庭菜園に作り変えてしまった、といった著者自身の自給自足的な取り組みや、著者が経営する会社での年収が6割になる時代に備えた働き方の改革事例が紹介されています。

 

約10年前、2009年に出版された本ですので、リーマンショック後の世相を受けて、年収が6割になっても相応に暮らしていくために、どんな事ができるか、また、やっておくのが良いか、ということが書かれています。その部分からは、そのうちまたやって来るであろう経済危機に備えるためのヒントを得ることはできると思います。

 

ただ、この本はタイトルの付け方を間違っています。

 

この本の本編は、明らかに第2部のリーマンショックに対する分析と日本経済を立て直すための提言の部分です。何故ならば著者は経済学の博士号を取得しているような方であり、分かりやすく、説得力のある話が展開されているからです。従って、この本を多くの方に読んでもらおうとするなら、そっち(経済)よりのタイトルを付けた方が良かったでしょう。

 

サブプライムローンによる金融危機がどのように起こったのか、といった説明から、経済のカジノ化の実体、そしてそこから日本がどのように立ち直るべきか、という具体案までがわずか70ページほどの第2部の中にすっきりとまとめられています。その提言は、今の日本においてもそのまま当てはめられるもののように感じました。

 

 

2. 持続的な経済成長

 

 今回は「信用創造」について分かりやすく説明された部分から引用しました。経済成長率に一喜一憂する、と述べられていますが、日本では経済成長率が長く「横ばい」の状況が続いています。

 

日本の経済成長率の推移 - 世界経済のネタ帳

 

「借金を返すため」に、日本は経済成長しないといけない、と言われると多かれ少なかれ、興ざめするものを感じます。

 

 

この本は10年前の経済状況をベースに書かれており、現状が気になったので、『我が国の財政事情(平成30年度予算政府案)平成29年12月 財務省主計局』を見てみました。

https://bit.ly/2IEiHV4

 

 

すると、2018年(平成30年)の日本政府の一般会計は歳出総額が97.7兆円。そのうちの国債の償還と利払いに充てる国債費は23.3兆円です。国債費を除く歳出は74.4兆円になります。

 

これに対して歳入も、総額は97.7兆円となっていますが、この内訳は税収が59兆円、公債金(国債発行による借り入れ)が33兆円、その他収入は5兆円となっています。ですから、公債金を除く収入は64兆円くらいになります。

 

つまり今年度(2018年度)の日本政府の収支は、ざっくり言うと「支出74兆円、収入64兆円で10兆円の赤字」になります。

 

また、歳入に占める公債金の割合である公債依存度は34.5%となっています。33兆円分の新たな借金により、10兆円分の赤字の補てんと、23兆円の借金返済を行なっています。

 

従って、新たに借りたお金の7割は借金の返済に充てている、という状況です。これはあまり生産的なお金の使われ方ではありませんよね。私たち日本国民の幸福のための投資には直接つながっていないからです。

 

 

3. 国の借金をどうするか

 

日本の債務残高が世界の中で突出して高いことは良く知られており、その割合は2018年度で、対GDP比240%です。

 

ちなみに他の国の債務残高がどうかというと、例えば、同じく2018年度でアメリカは対GDP比107%、イギリス89%、ドイツ61%、イタリア131%などとなっています。

 

このような巨額の借金を少しでも減らすために、2019年10月に消費税は8%から10%へと増税されることが決まっています。

 

 ですが、そのような増税の前に、借金を減らすためにできることがある、と著者は主張されています。

 

それは「政府紙幣の発行」です。

政府紙幣 - Wikipedia

 

政府紙幣の話はまさしくこの本が出版された2009年頃に政府で議論されていたことがありました。

 

政府紙幣は日銀券と別に政府が発行する紙幣です。政府紙幣の最大のメリットは国債と異なり、金利を支払う必要がないことです。

 

これにより、

 

・借金返済のための無駄な経済成長をする必要がなくなる

・増税に頼らない負債の返済が行える

 

と述べられています。

 

また、通貨量を増やすことでデフレが続く日本をインフレ(物価上昇)の方向に持っていきたい、ということも考えられるでしょう。

 

一方で、政府紙幣発行におけるデメリットとしては、

 

・通貨量が増加してインフレが進みすぎ、

    ハイパーインフレになる懸念がある

 

・無利子・無期限であるため、発行の乱発を招き、財政規律を失う恐れが大きい

 

・政府紙幣を日銀が保有すると日銀のバランスシートが悪化して、対外的な円の信用を毀損する

 

などの問題があるようです。

 

調べてみると、一長一短があるので簡単には実行できない政策のように感じました。

 

また、紙の紙幣は流通させて、回収するのにもコストがかかります。

 

 

読んでいて思ったのは10年経った今なら、新しい技術の力、

 

「ブロックチェーンで何とかできないのかな?」

 

ということです。

 

 

ビットコインはブロックチェーンという基盤技術の上に成り立っていますが、現在、民間の銀行だけでなく、各国の中央銀行などでも導入のための実証実験が進められています。

 

この点で一番進んでおり参考になるのはエストニアでしょう。エストニアには政府が電子通貨「エストコイン」を発行するという構想があります。

https://bit.ly/2J5tRWr

 

このエストコインは、

 

・政府が管理することで、偽造を許さず信用を担保する

 

・国債の発行の代わりにエストコインを発行することで、公共部門などへの投資を行う

 

・エストコインはエストニアの電子居住制度のコミュニティ内で売買が可能

 

・エストコインの価値がユーロに紐付けられている

 

などの特徴があります。

 

これらのメリットを好ましく思う利用者が一定数以上集まれば、前述の政府紙幣よりも(国家の借金を減少させる方法としても)うまく機能しそうな気がします。

 

 

ただ、エストニアはEUに属しており、EUではECB(ヨーロッパ中央銀行)だけが通貨の発行権を持ち、各国政府にはその権限はありません。

 

そのため、この新しい解決策だと考えられるエストコインの計画にもECB総裁から「待った」がかかりました。

 

従って、現時点ではいつ、このエストコインの発行が開始されるのかなどは分からない状況です。今後もエストニアとエストコインの状況には注目しておきたいところです。

 

 

でも、EUのような制約を持たない国だったとしたら、例えば日本でも、このような政府が主体となって発行する仮想通貨は、意外に役に立つのでは?と考えてしまいます。

 

もちろん、このような政府が発行主体となる仮想通貨の導入にはメリットだけでなく、デメリットもあるでしょう。それもまた改めて考えてみようと思います。

 

 

4. まとめ

 

・今年度(2018年度)の日本政府の収支は

「支出74兆円、収入64兆円で10兆円の赤字」

 

・政府紙幣の発行は諸刃の剣

 

・政府主体の仮想通貨のアイデアとして

   エストニアの事例が参考になる

 

 

〈今日の読書を行動に変えるための
 個人的チャレンジシート〉
ーーーーーーーーーーーーーーーー

1.この本を読んだ目的、ねらい

 

・年収が6割になった時代にも、心豊かに

   楽しく過ごすための考え方と方法を知る


2. 読んでよかったこと、感じたこと

 

・経済に関する議論が非常に参考になった

 

・自分自身で政府紙幣について調べてみることで

    色々なことが勉強できた


3. この本を読んで、自分は今から何をするか

 

・政府主体の仮想通貨の発行についての

    メリットとデメリットについて考える

 

・ブロックチェーン技術で国の借金を

    減らす方法を考えてみる


4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか

 

・世の中の大きな、不可逆的な流れを感覚的な

    捉えて言語化できるようになっている

 

・自分で情報を集めて解釈して編集することを

   苦に思わなくなるとともに、編集のスピードが

   2倍になっている

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

メルマガでも配信中です。

メルマガ「読書尚友」登録フォーム