自分の中に眠る「価値」を見つけるには? 『マーケット感覚を身につけよう』 ちきりん 著
マーケット感覚を鍛えるための4つ目のポイントは、成功と失敗の関係を正しく理解することです。日本人はよく、「シリコンバレーは失敗に寛容だが、日本社会は失敗した人を許さない」と言いますが、この理解は完全に間違っています。シリコンバレーは失敗に寛容なのではなく、「失敗経験のない人など、まったく評価しない」のです。
なぜなら「失敗経験がない」ということは、「これまでの人生において、チャレンジをしてきていない」と見なされるからです。「できる範囲のことしかやってこなかったのでは?」「高い目標を掲げた経験がないのでは?」と疑われるのです。
また、失敗経験のない人は「成功するのに必要な学びを得ていない」とも思われます。失敗から得られる学びは非常に大きく、成功のために不可欠な経験と考えられているため、一流大学を出ていても失敗経験のない人は、学びの量や質が足りていないと判断されてしまいます。
「失敗する可能性の高いことはやらない」という考え方は、進歩を止めてしまうのです。
市場に向き合ってさえいれば、誰でも、そして何歳になっても率直なフィードバックが得られます。たとえば多くの場合、「これは売れる!」と思ってもまったく売れないし、「これなら注目を集めるはず」と思って発表しても、話題にさえなりません。市場は言葉ではなく結果で、厳しいフィードバックを突きつけてくるのです。
しかし、「市場でモノを売る」というのは、「売ってみて、売れるかどうかを見て終わり」ではありません。「これでは売れませんよ」という市場からのフィードバックを得、商品や売り方を改善するために「売ってみる」のです。つまり、成功するためではなく、成功に不可欠なヒントを得るために、市場と向き合うのだと考えればよいのです。
自分には何の取り柄もないと思う人ほど、早めに市場に向き合い、積極的に市場から得られるフィードバックを活用しましょう。「失敗しないよう十分に準備する」とか「うまくできるようになるまで勉強する」のではありません。そんなやり方では準備と勉強だけで一生が終わってしまいます。そうではなく、「とりあえずやってみる→失敗する→市場からフィードバックを得る→それを参考にして、もう一度やってみる」というプロセスをできるだけ何度も繰り返すことが重要なのです。
〈今日のコンテンツ〉
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1. この本はどんな本か?
2. 情報のインプットとアウトプット
3. アナログでチューニングを合わせていく
4. まとめ
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1. この本はどんな本か?
これまで価値があるとはみなされなかったものごとに対して、どのような「新しい価値」が生まれているのかを学ぶことができます。それに加えて自分自身を、組織の中ではなく市場から「価値がある」と見なされるように成長させていくための考え方と行動について述べられています。
著者の言う「マーケット感覚」は、市場で求められている「価値の素」を探し、それに気がつくことができる力です。一見、価値がないと思われるものごとの中にも、他の人が気づいていない「新しい価値」を見つけることができれば、私たちの日々の行動から、職業の選択、さらには人生まで、大きく変化していくこともあり得ます。
2. 情報のインプットとアウトプット
どうすれば私たちは自分自身の「市場での価値」を高めていくことができるのでしょうか。
この本で述べられている「市場価値を高める」が意味するのは、高学歴や難関資格を取得するということではありません。
そのような学歴や資格については、将来長期間に渡って有効に活用できるかどうか、その市場の有望性も含めて見極めよ、ということを言っています。
例えば最難関の資格とも言われる弁護士は、仕事自体の需要は横ばいなのに、司法制度改革によって司法試験の合格者数が増え、供給が増えたため、過当競争になってしまっています。
多大な労力と時間、お金を投入して難しい試験を突破した優秀な人材だったとしても、これでは割に合いません。
そうならないためにも、自分が今働いている業界や市場、あるいはこれから働きたいと考えている仕事の業界や市場は、果たして有望なのか、また、そこで自分の「強み」は発揮できるのかを考えておくことが大切です。
「自分には人に誇れるようなスキルや能力は何にもない」と思われる謙虚な方も中にはいらっしゃるでしょう。ですが、いわゆる「普通の人」でも、他の視点から見ると凄い才能や技術を保有していたりすることがあります。
本書の中でそのような例として著者が紹介しているのは、日本人女性のお化粧のスキルです。これは世界的に極めて高いレベルであり、YouTubeでメイクアップの動画を紹介すると海外の女の子からも人気になるそうです。また、日本のスーパーのレジ係のスキルやファミレスの接客スキルは、(語学やビザの問題を除けば)欧米やアジアのカジュアルレストランで明日からフロアマネージャーが務まるくらい「グローバルに通用するスキル」だそうです。
問題は、そんな「普通のこと」、「当たり前のこと」、「自分が大したことないと思っていること」の中に、見方や場所を変えると実は「もの凄く価値があること」が含まれている、ということです。そしてそれに気づくことができる能力も「マーケット感覚」だといいます。
このようなマーケット感覚を身につけたい、この能力を磨きたいと思ったら、私たちはどうしていけばよいのでしょうか?本書で説明されているのは以下の5項目です。
1. プライシング能力を身につける
2. インセンティブシステムを理解する
3. 市場に評価される方法を学ぶ
4. 失敗と成功の関係を理解する
5. 市場性の高い環境に身を置く
それぞれの詳細な説明は本書に譲りますが、今回はその中の、「4. 失敗と成功の関係を理解する」のところから引用しました。
シリコンバレーでは「失敗したことがない人=チャレンジしたことがない人」と見なされてしまうそうです。
失敗することは誰でも怖いですし、できるなら避けたいものです。もし、失敗してしまったら、恥ずかしくて、誰にも言わずに隠してしまいたくなることもあります。(これを組織ぐるみで行った場合、後に「大事故」に発展することもあります)。
私たちが何かの願望を持ち、それを現実にしたいと考えた時、まず行なうことが多いのは、「うまくいくための情報を集めること」です。
それはネットでの検索であったり、本やセミナーからの情報収集であったり、あるいは友人・知人に聞くということもあるかもしれません。
そしてこれらのことを行うと、それなりに多くの情報が集まって、知識も増えます。ところが状況としては情報を集める前と「何一つ変わっていない」ということに気付くことになります。むしろ情報収集に費やした時間が過ぎた分、状況が悪化した可能性もあります。
私たちが情報収集したこと、インプットしたことは無駄にはなりません。ただし、それはその内容をきちんとアウトプットすることができた場合の話です。
私たちの頭の中が冷蔵庫だとすれば、集めた「役に立つ情報」は仕入れた食材、生鮮食品です。冷蔵庫にスーパーで買ってきたニンジンを長期間保存したままにしていると、そのニンジンは茶色くなって腐ってしまいますよね。ですからその前に冷蔵庫から取り出して、肉じゃがや、カレーやシチューにしてやる必要があるわけです。
私たちがせっせと集めた情報もそのような食材と同じです。腐る(忘れてしまう、価値がなくなる)前にちゃんと調理(アウトプット)してやることが大切なのです。
もちろん、料理を作ろうとすれば、「やたら水っぽいカレー」なんかが出来てしまうこともあります。あるいは火加減を間違えて、コンロから取り出してみたら「真っ黒焦げの焼き魚」が出来てしまうこともあるでしょう。
それらは確かに「失敗」ですが、その「失敗」を経験したことで、次にカレーや焼き魚を作った時には、同じような失敗はしなくなるのではないでしょうか。
情報のインプットとアウトプットの関係も、料理と全く同じだと思います。
3. アナログでチューニングを合わせていく
デジタルでチューニングを合わせるラジオや、チューニングの手間がないスマホアプリのラジオしか知らない若い方には分かりにくい例えかもしれませんが、昔のラジオはアナログで、ダイヤルを回すことで、聞きたい放送局の周波数に調節していました。
聞きたい放送局の周波数以外のところだと、「ザーッ」というノイズがずっと聞こえてくるようになっていました(たまに謎の外国語放送がうっすら聞こえたりもしました)。
今回引用した部分に「市場でモノを売る」という話が出てきます。何かの商品を売ってみた時に、反応があるかどうか。自社が「これは絶対売れる!」と考え、満を持して市場に投入してみた製品が「想定以上に全然売れなかった」ということはよくある話です。
さきほどの料理の話と同じですが、その失敗から色々な情報を引き出すことができます。「なるほど、こういう売り方だと売れないのか」、「ターゲット設定が明確になっていなかったのではないか」、「販売はネット限定にしない方が良かったのではないか」など。一つの失敗から、次に同じ失敗をしないためのヒントを得ることができます。
そして、また改良した製品を市場に投入していきます。そのような「試行錯誤」を続けることで、ある時、こちらの思いとターゲット層の潜在顧客のニーズとが「うまく合致」して、「大ヒット商品」となる、ということが起こるのだと思います。
この「合致」が昔のラジオのアナログのチューニングに似ているな、とふと思いました。私たちは言うなれば「可変の周波数を持つ放送局」です。ユーザーはリスナーです。そしてユーザー(リスナー)はそれぞれお気に入りの放送局があるので、自分からラジオのダイヤルを回して別の放送局を探そうとしたりはしません。
従って、リスナーに私たちの放送局のお勧めの一曲(商品)を聴いて、「これ、いいな」と思ってもらうためには、リスナーではなく放送局の方から色々な周波数に向けて、自分の情報を発信をしていかないといけないのです。
多くの場合、発信してもリスナーがおらず、ノイズが流れているだけになるでしょう。
でも、「この周波数にはリスナーがいないな。じゃあ、この周波数に当社のキラーチューンを流してみたらどうかな?」と、色々試してみることで、ある時、私たち放送局側とリスナー側のチューニングが「ピッタリ合致」することがあるのです。
その時、ユーザーのラジオのスピーカーからは、ノイズのないクリアなステレオ音声で、私たちの「キラーチューン」が届けられていることでしょう。
それまでは、さまざな周波数を試してみる「行動(アウトプット)」こそが必要になってきます。インプットだけでは経験値は溜まらないし、レベルアップのファンファーレも鳴らないのです。
4. まとめ
・「マーケット感覚」は、市場で求められている「価値の素」を探し、
それに気がつくことができる力
・情報のインプットとアウトプットの関係は料理と同じ
アウトプットしないと腐ってしまう
・リスナーの耳に届く周波数を探すための行動を始めよう
〈今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート〉
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1.この本を読んだ目的、ねらい
・マーケット感覚について学ぶとともに
それを身につけるための方法について学ぶ
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・市場を意識するという視点、自分の中にある「知られていない価値」を
具現化するという視点を得られた
・今後あらゆるものが「市場化」されていくという視点を
得ることができた
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・市場と向き合う回数を増やす
・市場と、自分の中にある「人に求められる価値」を定期的に棚卸する
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・変化を楽しめる人間になっている
・失敗体験を恥ずかしがらずに語れる人間になっている
・マーケット感覚が磨かれて、他者や自分の中の価値を
言語化して、世の中の役に立てることができるようになっている
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