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イノベーションを起こすには? 『人類の未来』ノーム・チョムスキー, レイ・カーツワイル, マーティン・ウルフ, ビャルケ・インゲルス, フリーマン・ダイソン, 吉成真由美 インタビュー・編

 

人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)

人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)

  • 作者: ノーム・チョムスキー,レイ・カーツワイル,マーティン・ウルフ,ビャルケ・インゲルス,フリーマン・ダイソン,吉成真由美
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2017/04/11
  • メディア: 新書
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――「快楽的持続可能性」(ヘドニスティック・サスティナビリティ:Hedonistic Sustainability)という表現を使って、持続可能性というのは、必ずしも生活の質を犠牲にして獲得しなければならないものではなく、もっとポジティブなアプローチをすることができるものなのではないか、という提案をされていましたが、これについてお話しいただけますか。

 

 

インゲルス 「持続可能性」というチャレンジを、政治的なジレンマではなくデザイン上のチャレンジとして受け止めようということです。

 

実際に問いや建物を作るにあたって、「持続可能性」を実現するために、例えば冷たいシャワーを使わなければならないというような、様々な場面で生活の質を落とした妥協の産物にするのではなく、もっと積極的なアイディアを出して、持続可能な都市はそうでないものよりずっと快適だというふうに発想転換したものです。

 

 

――「イエス・イズ・モア(Yes is more.)」というあなたのスローガンは、どのような意味を持っているのでしょうか。

 

 

インゲルス これは建築に対するインクルーシブなアプローチの仕方を表現したものです。建築とは「適応のアート」であるべきです。アバンギャルド的な革命的な態度というのは「反体制」「反既存スタイル」が典型的な決まり文句ですが、これに対抗して「過激にインクルーシブ」にすることで、革新や発見の確率を格段に上げようというのが私の態度です。

 

ですから、単に一つの条件や要求に対して「イエス」と答えるだけでなく、複数の、しかも対立するような要求に対してもなんとかしてすべて「イエス」と答えようということ。

 

「イエスと言うことでより可能性が広がる」(Yes is more)ということです。まさに体をねじってアクロバットをするようにデザインをよじりながらあえて矛盾するような要求を包含してそれらを実現していく。

 

そうすると、スタンダードな既存の解決方法というものはまったく役に立たなくなる。すべての条件や要求には応えられないからです。そこからまったく新しいデザインというものが半ば強制的に生まれてくることになります。

 

すべてに対して「イエス」と言うことで、結果的にもっとたくさんのことをしなければならなくなるからです。

 

典型的な例は「マウンテン住居」です。庭のある郊外と街中であることが両方満たされている。ニューヨークにできた集合住宅「VIA」の場合は中庭(コートヤード)と高層ビル(スカイスクレイパー)とが一緒になったので、「コートスクレイパー」と呼んでいます。

 

膨大な数の耐性実験を経て、対立するような要求や条件をすべて満足させるということに完全にコミットしたら、イノベーションや発見が生まれるチャンスは高くなります。

 

 

――制約を妥協の元にしてしまわずに、クリエイティビティの基にしてしまおうということですか。

 

 

インゲルス その通りです。ある意味、問題が難しければ難しいほど、その解決策は予想を超えたものになる。

 

 

〈今日のコンテンツ〉

ーーーーーーーーーーーーーーーー

1. この本はどんな本か?

2. 「OR」と「AND」

3. 制約の中に自由を見つける

4. まとめ

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1. この本はどんな本か?

 

私たちを取り巻く事象は、人為的なものであれ、そうでない自然現象であれ、非常に複雑になっています。そういった世界のあらゆる複雑な事象を私たちが少しでも理解していくために、それぞれの分野で最先端をひた走る第一人者の叡智に学ぶことは有効な方法だと考えられるでしょう。

 

本書は5人の賢人に対するインタビューを通して、人類の未来について思索を深めようとするものです。その5人とは、数学者であり、言語学者、政治学者でもあるノーム・チョムスキー。発明家で未来学者でもあるレイ・カーツワイル。経済・金融ジャーナリストのマーティン・ウルフ。建築家のビャルケ・インゲルス。そして、数学者であり、理論物理学者、宇宙物理学者でもあるフリーマン・ダイソンです。

 

彼らへのインタビューでテーマとして取り上げている分野は、「トランプ政権と民主主義のゆくえ」。「シンギュラリティ」。「グローバリゼーションと世界経済のゆくえ」。「都市とライフスタイルのゆくえ」。「気候変動モデル」と非常に幅広いものになっています。

 

深い洞察と豊富な経験に裏打ちされた彼らの言葉の中には、はっとさせられるような物事の本質を表す指摘が多数登場します。

 

 

今回は建築家ビャルケ・インゲルスへのインタビューの中から引用しています。

 

 

2.「OR」と「AND」

 

このビャルケ・インゲルスという人を私はこれまで知りませんでしたが、本書のプロフィールによると、世界貿易センター2やカリフォルニアのグーグル本社など、名だたる建築物を設計されている世界的に有名な方のようです。

 

 これまでにどのようなものを作られているかについては、以下の記事が参考になります。

 

建築家ビャルケ・インゲルスが描く「未来都市」のつくりかた WIRED

https://bit.ly/2sQ1SQf

 ビャルケ・インゲルスがワープスピードで語る3つの建築の物語 TED

https://bit.ly/2M8sll1

 

 

 さて、この方が述べられている特徴的な考え方が「Yes is more」というものです。これは「単に一つの条件や要求に対して「イエス」と答えるだけでなく、複数の、しかも対立するような要求に対してもなんとかしてすべて「イエス」と答えようということ」。つまり、「イエスということで可能性が広がる」ということだと述べられています。

 

私たちはどうしても、「これはできない」、「あれはできない」と「できない理由」、言い訳を探してしまいがちです。例えば、複数の仕事を同時に進めようとした場合などは、かえって仕事の効率が落ちてしまうことも考えられるため、「やることをひとつに絞る」ことが多いです。

 

この「一つのことに集中する」ことのメリットはこれまで多くの人が語っており、また多数の本も出版されているくらいなので疑いようのないことです。

 

自分の持つ時間やお金、労力といったリソースを全て投入することで最大限の成果を得ようとするものです。

 

ここで一端立ち止まって、改めて考えてみたいのですが、「一つに絞る」ということは別の言い方をすると、「他のことを捨てる、あきらめる」ということでもあります。

 

「Aを選んだからBは選べない」

 

世の中にはこういう状況が良く起こります。会社の飲み会に行くから、今日は資格試験の勉強はできない(時間的に)。チョコレートケーキを選ぶとチーズケーキは食べられない(摂取カロリー的に)。良い鞄を買ったから今月はあの素敵な洋服は買えない(予算的に)。製品開発の現場で、製品のある一つの性能を向上させようとすると、替わりに他の性能が落ちる(物理的に)。などなど、私たちは毎日、意識的にも無意識的にも色々な決断をして何かを選択して過ごしています。

 

決して二者択一である必要はないのですが、3者以上のものの中から選ぶ場合でも同じく、

 

「どれか一つを選ぶと残りは選べない」

 

私たちはいつの間にか「そう思い込んでしまっている」のではないでしょうか?

そして、そこで「思考停止」してしまっているのではないでしょうか?

 

 

今回このインゲルスさんが示してくれた「Yes is more」というスローガンは、そのような思考の枠をはずすためのヒントを投げかけてくれているように思います。

 

 インゲルスさんは「対立するような複数の要求に対しても、なんとかして「全て」イエスと答えようとする」と述べています。

 

この「対立するような複数の要求にすべてイエスと答えようとする」というのは、まさしくイノベーションを生み出すための思考法ですね。

 

何故なら、イノベーションというのは私たちの今の常識から外れたところにあります。

 

そして、「どれかを選べば、他の何かは選べなくなる」というのが私たちの多くが持っている常識です。

 

そのような常識をひとまず忘れて「もし、すべてを同時に選ぶ(要求を満たす)ことができるなら?」と考え抜いて、それを実現できる答えを見つけることができたなら、それはすでに今の私たちが囚われている「常識の外」にあるはずだからです。

 

このように何か一つを選ぼうとするのが「OR」の発想だとするならば、全てを同時に選べる方法を探すというのは「AND」の発想だということになります。

 

 

今回引用した文中の最初に述べられている「快楽的持続可能性」というコンセプトも、このような対立する概念を結びつけて両方を同時に達成することに成功したイノベーションになります。

 

このインゲルスさんは、「郊外の人目につかないところにゴミ処理場を設置するという常識を破り、そこを人が集まる場所にしてしまおうと考え、高さ90m、面積31,000㎡のスキー場をゴミ処理場の上に建設した」そうです。

 

ごみ処理場というのはどちらかとネガティブなイメージを持たれることが多いですが、それを街中で最もクールな場所に変換してしまったそうです。

 

 

3. 制約の中に自由を見つける

 

「Yes is more」というスローガンにしても、「快楽的持続可能性」というコンセプトにしてもそうですが、「到底両立しえない」、「矛盾している」と思われる制約条件を「あえて受け入れてみる」ところから発想を広げていっています。

 

あえて制約条件をつけることで「強制的に」イノベーションを生み出そうという仕組みになっています。

 

この「仕組み」なら私たちも取り入れて真似することができるでしょう。具体的に言うと、

 

「チョコレートケーキを食べて、さらにチーズケーキも食べられるためには、どうしたら良いのか?」

 

を必死で考え抜くのです。

 

 

私たちは誰でもラクな方に流されていきます。

 

「平日はやることがたくさんあるから、勉強は週末にしよう」

 

と考えておきながら、ほとんどの場合、時間がたくさんあるはずの週末にはたいして勉強しなかったりします。

 

それよりも1日に1時間しか自由時間が取れないような平日の方が実は勉強がはかどったりするでしょう。

 

その理由は、私たちは制約があると、

 

「なんとかしてその制約から自由になれないか?

 制約の枠の中一杯を最大限有効活用できないか?」

 

と必死で考えるようになる性質が備わっているからです。

 

 

 ですから私たちは、この性質を私たちの常識を打ち破って、成長していくために利用することができるはずです。

 

理想の状態としては、「今、自分は常識に囚われてしまっている」、ということに気が付いたなら、すかさず「Yes is more」の言葉を思い出して、制約の中の自由について考え出せるようになる、ということでしょう。

 

大きな世界を書き変えていくことのできる「イノベーションを生み出す発想法」を利用して、まずは小さな私たち自身にイノベーションを起こすところから始めていきましょう。

 

 

4. まとめ

 

 ・「Yes is more」は対立するような複数の要求にすべて

  イエスと答えようとする、イノベーションを生み出す発想法

 

 ・相容れない、と思われるものを両立させる方法を考えることで

  私たちは自分の常識の殻を破ることができる

 

・制約があるからこそ、そこに自由を発見することができる

 「あえて制約を受け入れてその答えを探し続ける」ことが

 成長につながる

 

 

〈今日の読書を行動に変えるための
 個人的チャレンジシート〉
ーーーーーーーーーーーーーーーー

1.この本を読んだ目的、ねらい

 

・賢者の視野の広さと洞察の深さに私淑する


2. 読んでよかったこと、感じたこと

 

・レイ・カーツワイルの未来予測はやはり面白い

 

・ビャルケ・インゲルスのイノベーションに対する考え方を

 知ることができた


3. この本を読んで、自分は今から何をするか

 

・「Yes is more」の考え方を取り入れ、「思考停止」を打破する

 

・「制約の中の自由」を拡大する


4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか

 

・言い訳をせず、実現できる方法を探し、行動することができる

 ようになっている

 

・思考停止の殻を破り続けて大きく成長している

 

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人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)

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