成長の限界を感じた場合はどうすれば良いのか?『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』枝廣淳子 著
なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方
- 作者: 枝廣淳子,小田理一郎
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
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今日の読書日記は『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』から、「システム思考」と「成長の限界」について。
「新商品をつくると、注文がたくさん来て、売上げが増える。そうすると、次の新商品の開発にお金が回せるから、ますます新商品をつくることができる。ますます儲かるので、どんどん開発をする」
「ところが、受注がどんどん増えるようになると、生産すべき量が生産設備のキャパシティを超えるようになってくる。すると、納期に間に合わなくなり、しだいに納期の遅れが長くなってくる。そうすると、あそこはすぐに納品してくれないという評判がたって、他の顧客は注文を控えるようになり、受注量は減ってくる」。
身の回りにもこのような「成長するが、頭打ちになってしまう」パターンはよくあることでしょうし、おそらくご自身でも「成長の限界」の原型は経験されたことがあるでしょう。
たとえば、
「やる気マンマンなので、いろいろなプロジェクトに積極的にかかわるようになった。あちこちの部門や社外とのプロジェクトはやりがいもあり、満足感がふくらんでくるので、ますますやる気が出てきてあれもこれもと手を挙げるようになる」。
「ところが、自分の時間には限りがある。逆立ちしても一日の時間を二四時間以上にはできないので、かかわっているプロジェクト数が増えると、どうしても、一つあたりにかける時間を減らさざるをえない。すると、仕事の質が落ちてしまうので、いっしょにプロジェクトをやろうと声をかけてくれる人が減ってくる」
これも、「成長の限界」の原型です。
では、このような「成長の限界」パターンがあることがわかったら、どうしたらよいのでしょうか?
「システム思考の鉄則」その一は、「成長を加速するな」です。
成長を抑制しようとするバランス型ループが足を引っ張っている状態で、必死になって成長の自己強化型ループを回そうとするな、ということです。
システムのなかにいる私たちは、ブレーキをかけているバランス型ループに気づかないことがよくあります。
成長の自己強化型ループがこれまでうまくいっていたのでよけいに、足を引っ張る構造になってきたことに気がつかず、「努力が足りないからうまくいかないのだ」「もっと魅力的な入会キャンペーンをやらなくては」「もっと新商品を出せ」「もっとがんばって仕事をしよう」と、成長の自己強化型ループを一生懸命加速しようとしがちです。
しかしこれは、システム思考の知恵からいうと、やってはいけないことなのです。必要なことは、立ち止って、一歩引いて、全体を見ることです。
そして、鉄則二は「制約要因を見出し(できれば予期し)弱めよ」です。
サイドブレーキがかかっていてうまくいかない場合には、懸命にアクセルを踏み込むのではなく、サイドブレーキを見出して、はずすことです。
つまり、これまでずっとうまくいっていた成長が減速したり減退し始めたら、これまでの成長をそのまま続けようと加速するのではなく、成長したがゆえに出現した、足を引っ張る制約ループを見つけ、そのループを弱めるよう対処することが大切なのです。
〈今日のコンテンツ〉
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1. 自己強化型ループとバランス型ループ
2. 成長を加速するな、制約要因を見出し弱めよ
3. まとめ
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1. 自己強化型ループとバランス型ループ
「システム思考」とその使い方について分かりやすく説明されている本です。
システム思考では、
「かつてうまくいっていたものがうまくいかなくなるなど、状況に一貫した変化が起こっている場合、構造の変化が状況やパターンに変化をもたらしている。したがって、問題状況を引き起こしている構造を見極め、構造に働きかけることで、望ましいパターンや状況を創り出そう」
と考えます。
そして、
「問題を単発の出来事として考えずにパターンとしてとらえ、そのパターンを生み出している構造を理解することで、構造に働きかける」
ということを行っていきます。
システム思考は、これによって、「全体像を把握することで、何が問題になっているのかを発見して、そこを改善して問題解決に導こう」とするものです。
状況を一歩引いた視点から俯瞰して考えて、書き出すことで、今の自分や組織が抱える問題点をより客観的に捉えることができるようになります。
この、システム思考では状況の「因果関係のつながり」を「ループ図」という図解により表現します。
例えば、以下のような事例があるとします。
「睡眠時間」が短くなると、「疲れ」が蓄積してしまう。すると「仕事の能率」が下がるので、同じ仕事をこなすためにかかる「仕事の時間」が長くなる。するとますます「睡眠時間」が減ってしまう。
この状況をループ図で描くと以下のようになります。
~~疲労と能率ループ~~
→→→(睡眠時間)→→→
↑ 逆 ↓
↑ ↓逆
(仕事時間) (疲れ)
↑逆 ↓
↑ 逆 ↓
←←←(仕事の能率)←←←
ここで、「逆」と書かれているのは、各項目の増減が結果の項目に対してどの方向に影響を与えるかを表しています。例えば「仕事の能率が下がると、仕事時間が増える」というふうに「逆向き」に作用するという意味です。
このようにある方向へ向かって増えたり減ったりするフィードバック・ループを「自己強化型ループ」と呼びます。この自己強化型ループは「好循環」になる場合も「悪循環」になる場合もあります。
上の例の場合は、「睡眠時間が増えると疲れが減って、仕事の能率が上がり、仕事時間が減る、すると睡眠時間が長く取れる(増える)」というのが「好循環」のパターンです。
もう一つ、以下のような事例を考えてみます。
疲労が増えると、コーヒーを飲んで、カフェインの力で疲労を感じないようにする。すると、いざ寝るときになってもカフェインの覚醒効果が効いているために寝つけず、睡眠時間が短くなり、思うように疲労が回復しない。
この状況をループ図で描くと以下のようになります。
~~疲れを忘れるループ~~
→→→(コーヒー)→→→
↑ 同 ↓
↑ ↓
↑ ↓
↑ ↓
↑ 逆 ↓
←←←←(疲労)←←←←
↓ 逆 ↑
↓ ↑
↓ ↑
↓ ↑
↓ 同 ↑
→→→→(睡眠)→→→→
~~疲労回復ループ~~
つまり、上半分のループ図は「コーヒーの量が増えると(一時的に)疲労は減る。疲労が減るとコーヒーの量は減る。また、下半分のループ図は「疲労が減ると睡眠時間も減る、睡眠時間が減ると疲労は増える」という意味になります。
ここで「同」と書かれているのは、「疲労が増加するとコーヒーの量も増加する」というように各項目の増減が結果の項目の増減と同じ方向になる、ということを表しています。
2つのループ図が合わさって描かれていますが、これらはどちらも、「バランス型ループ」と呼ばれるものです。「バランス型ループ」はある目標に向かって収束したり、ある幅で安定を保つというパターンを示しています。
そして自分を取り巻く状況の構造は、全てこれら2種類の「自己強化型ループ」と「バランス型ループ」の組み合わせで表現することができるようです。
ここで、ループ図の描き方も簡単にまとめておきましょう。
ループ図は以下の5ステップの段階を踏まえて描くことができます。
1.変数を最低2つ用意する
変数が2つあればループ図を作ることができます
2.変数間に「原因」と「結果」の矢印を引く
矢の根元の部分が「原因」で先端の部分が「結果」になります
書くのは「相関関係」ではなく「因果関係」であることに注意して下さい
3.矢印の先端近くにその矢印の因果関係の種類を
「同」または「逆」と書き入れる
4.ループの種類を書き入れる
そのループが「自己強化型ループ」なのか「バランス型ループ」なのか
を書き込みます(上に挙げた事例では省略しています)
5.ループに名前を付ける
複数のループがある場合に、区別しやすいように、
後から見た時に何のループかが分かりやすいように
性質や特徴を示す名前をつけます
今、何か抱えている問題があった場合は、上記の事例のように一度紙にループ図を描いてみると、新たな視点からの気づきが得られると思います。
2. 成長を加速するな、制約要因を見出し弱めよ
さて、ここまででようやく事前の説明が終わりました(長かった)。いよいよ今日の本題に入ります。
実際の世の中や問題は1つだけのループで表現できるものではなく、いくつものループが複雑にからみあっています。
しかし、その構造をよく見ると、システムの種類にかかわらず、共通してみられるパターンがいくつもあるそうです。これを「システム原型」と呼びます。いわば、「よくあるパターン」をループ図にしたものです。
この「システム原型」にはたくさん種類があるそうですが、今回引用したのはその中の一つ、「成長の限界」と呼ばれるシステム原型です。
これは、「増やしたいものがあって、努力することでどんどん増やすことができるが、絶対的な限界があるので、どこかで制約が出てきて、限界のループが回り始め、増えなくなってしまう」というものです。
今回引用した部分の冒頭の事例をループ図で描いてみると以下のようになります。
~~納期の悪評ループ~~
(バランス型ループ)
→→→→→(納期の遅れ)→→→→→
↑ 逆 ↓
↑ 逆 ↓
(受注に対応する能力)(納期信頼性の評判)
↑ 逆 ↓
↑ 同 ↓
←←←←←←←(受注)←←←←←←
↓ 同 ↑
↓ 同 ↑
(売上げ) (新商品の数)
↓ 同 ↑
↓ 同 ↑
→→→→→(開発資金)→→→→→→
~~ラインアップ増強ループ~~
(自己強化型ループ)
この「システム原型」には、それぞれ対応する際の鉄則というものがあります。そして、「成長の限界」という「システム原型」を克服するための鉄則、それが、「成長を加速するな」と、「制約要因を見出し弱めよ」です。
鉄則の2番目の「制約要因を見出し弱めよ」は、まぁ、その通りでしょう。例えば睡眠時間が足りていないことが、自分の生産性を低下させているのであれば、「睡眠時間」が制約要因になっています。
従って、この場合は、「今よりも長時間眠るようにする」ということが解決策になります。
それよりも驚いたのは鉄則の1番「成長を加速するな」の方です。最初に読んだ時は「一体、何を言っているんだ?」と思いました。
というのも、「もっともっと成長したい」、「もっともっと成果を出したい」、という強い思いがあれば、「どうすれば成長を加速できるか」ということは常日頃から考えることだからです。
それなのに、「成長を加速しないためにはどうすればよいのか」と考えなくてはならない、というのはその思いとは真逆の発想になってしまいます。このことに困惑してしまいました。
でも、そこに普段の私の思考の「盲点」があったのです。
自分では限界一杯まで頑張っているつもりでも、成長を加速するために行動量を増やそうとしていても、肉体的、精神的、あるいは時間的、経済的な「限界」というものが誰にでも必ずあります。
そして、その限界をすぐに超えることはできません。例えば、全く眠らずに活動し続けるということは不可能ですよね。
もし「限界」を超える負荷がかかると、結局生産性が下がり、成長スピードも遅くなってしまうということなのです。
ですから、自分にかかる「負荷」が自分の「容量」内に収まっているかを、日頃から自分で気にかけてやる必要がある、ということです。
ループ図はそのようなチェックにも使えます。
頑張ってはいるんだけど、どうも上手くいっていない。結果が出ない。成長が感じられない。
そのような時は「成長の限界」の「システム原型」に自分が陥っていないかを疑ってみて下さい。
そして、もし、過剰な負荷がかかっていることに気がついたら、それ以上の負荷をかけてはいけません。
一度立ち止まり、自分の今やりたいこと、やるべきことが、自分の手持ちの容量(体力、精神、時間、お金などのリソース)内に収まるように「調整」してやりましょう。
その後で、自分の「限界」を決めている、制約となっているリソースを増やせないか、その制約を弱められないかを考えていくのです。
そうすれば、きっと新たな成長のステージが私たちを待っているはずです。
「システム思考」に興味を持たれた方、自分の問題解決のためにループ図を使いこなせるようになりたい方は、この本を是非一度読んでみて下さい。
3. まとめ
・ システム思考は自分や組織を取り巻く状況を因果関係で捉えて
問題の発生原因を推測するために非常に役に立つ
・ループ図の書き方の5stepは以下の通り
1.変数を最低2つ用意する
2.変数間に「原因」と「結果」の矢印を引く
3.矢印の先端近くにその矢印の因果関係の種類を
「同」または「逆」と書き入れる
4.ループの種類を書き入れる
5.ループに名前を付ける
・もし今の自分が「成長の限界」の「システム原型」にはまっているのならば、
それ以上成長を加速しようとするのではなく、一度立ち止まって、
状況を見つめ直してみよう
〈今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート〉
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1.この本を読んだ目的、ねらい
・システム思考について学ぶ
・ループ図を日常的に使いこなせるようになる
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・ループ図を描くための具体的な方法が学べた
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・自分の抱える問題についてループ図を描きまくってみる
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・自分や仕事、所属する組織の問題点を
システム思考によって把握できるようになっている
・自分の「成長の限界」に気付き、それを突破することができている
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