テクノロジーとの距離の取り方は? 『「自動運転」革命 ロボットカーは実現できるか?』小木津武樹 著
今日の読書日記は、『「自動運転」革命 ロボットカーは実現できるか?』から、自動運転が形作る未来の社会の姿について。
ワンルーム自動運転の進化系として、遊牧民的な生活者が生まれてくるといわれている。つまり住所不定の人が出てくるだろうということだ。
遊牧民的な生活者は都市部に住まない。地方に住んで、「どこでもドア」としての自動運転車の機能をフル活用して、都市部に用があるときは、寝ている間に移動しておけばいいという考え方を持つ人たちだ。
そういった人たちが一定数増えることで、既存の賃貸住宅の家賃が低下していくだろう。不動産としての家の価値は徐々に減っていく。
一方で、自動運転車用カーポートを備えた住宅が価値を持ってくると考えられる。
一家に1台かどうかは分からないが、自動運転車用のカーポートを持っていて、機動力を持った家としてストックしておくわけである。
ただし、自動運転車のサイズだと家ほど大きくないので、そこでの過ごし方は窮屈でもある。
だから、みんながみんな遊牧民になるとは思えない。広い家で、きちんと整備された風呂、トイレ、寝具のあるところで寝たいという普通の感覚をもつ人もいるだろう。その二つをうまく使い分ける人たちが増えてくるかもしれない。
そうなったときに起こることはいろいろ考えられる。まず思いつくのは、集中していた人口が徐々に分散していくということだ。
これまで東京近郊に集まっていた人たちにとっては「どこでもドア」を手に入れたようなもので、ある程度の距離であれば地方に住んでいても許容されるようになり、人の住むエリアは徐々に広がっていくだろう。
その結果、都市部の人口は徐々に減るかもしれないと予測している。一方、住人の高齢化で人気がなくなっていた、ちょっと遠距離にあるベッドタウンは人口が回復してくる可能性がある。
この頃になると完全自動運転車が交通の中心を占めるようになり、どこかの時点で、事故死傷者数ゼロという究極の目標が達成される可能性がある。
自動車そのものの変化にとどまらず、市場が変わることで、これまでとは違うビジネスチャンスが現れ、自動車を取り巻く環境のいろいろなところに変化が起きるだろう。
自動車を中心としたビッグバンのようなイメージだ。そういう大きな変化が今後10年余りの間に起きる。
スマートフォンを思い出してほしい。10年前は、まだまだ少数派で、さらにその5年前には、完全に今でいうガラケーの時代だった。
スマートフォンだってそのくらいの速さで普及したのである。
自動車の買い替えサイクルと携帯電話の買い替えサイクルはかなり違うので、そこまで速くはないかもしれないが、1990年代半ば頃からだと、自動車の形も変わり、かなり安全になって、ずいぶん乗り心地がよくなった。
同じくらいのスパンで、これまで述べたような変化は当然起きてくるだろう。
〈今日のコンテンツ〉
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1. 技術の進歩と社会の変化
2. 流れに棹をさす
3. まとめ
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1. 技術の進歩と社会の変化
この本は自動運転の技術の研究を行なわれている大学教授の著者が、自動運転の技術やその歴史、さらには自動運転が産業に与える影響から、自動運転の実現により今後起こる社会変化までを外観されたものです。
専門書ではなく一般向けに書かれているため、 読みやすい本です。今回は、その中から2035年~2045年頃に、自動運転の実現によって起こるであろう未来予測の一部を取り上げました。
著者によると自動運転によって本質的に自動車の「あり方」が変わってしまう、ということです。より具体的には、「運転と空間の分離」が進むと述べられています。
今、私たちが「自動車」と言われて、頭の中でイメージする形は、人間が運転するからこそ、その形をしているものです。
ところが、自動運転が実現されると、人間が運転しない→最終的に交通事故が起こらなくなる→バンパーやエアバックなどの安全装備は必要なくなる→さらにいうと、車が「今の形」をする必要すらなくなる、ということになります。
車の「形をカスタマイズ」することが可能になる、ということです。そうすると、可能性として「居住性」、「経済性」、「娯楽性」に特化した形の自動車になるだろう、と予測されています。
テレビを見たり仕事をしたりできる快適な自室のような空間を実現できるかもしれません。これが「居住性」です。
また、空気抵抗を減らした形状にしたり、物流にかかる人件費を下げて効率化することもできるでしょう。 これが「経済性」です。
ついでに、プロレーサーの運転のログをとってサーキットでその運転を自動運転車で再現して、体感できるようになるかもしれません。これが「娯楽性」です。
著者は「究極の移動」はドラえもんに出てくるひみつ道具の「どこでもドア」だと言います。
つまり、ドアを開ければ目的地に到着している。これが自動運転の実現により可能になるということです。確かにこうなれば「移動することに対するストレス」は相当低下するでしょう。
私も含めて、毎日の通勤に結構な時間がかかって大変だ、という人は多いですから、このような自動運転車が利用できるようになったら、大助かりだと思います。
職場につく10分前まで寝ていたり、あるいは好きな事をしていることができるからです。しかも満員電車で感じるストレスもありません。
自動運転、という一つのテクノロジーを考えてみた時、それによって起こることは単に交通の利便性が増すということだけではありません。
例えば、今回引用した部分に書かれているように、職場からかなり遠方に住むことも可能になるでしょうから、人口の都市部→地方への移動が起こるかもしれません。
そうなると、「駅から徒歩何分」とか、「近くにショッピングモールあり」などという、今の「好立地」の条件は崩れてくるでしょう。人は今よりも住みたい場所に住めるようになります。
自動運転という「どこでもドア」の実現は「距離」の問題を無くしてしまうのです。当然不動産価格も下がることになります。
人口の都市→地方への移動が起こる可能性がある、と書きましたが、そのどこにでも行けるという「機動性」のため、「定住しない」ことを選択する人も当然出てくるでしょう。
今後の日本は中長期的には、地方、都市部を問わず、人口が減少していきますが、定住地を持たない人が増えると、もともと暮らしていた市町村の税収が減り、地方のインフラの老朽化や行政サービスの低下がますます深刻化して、地域の統廃合が速まる、ということもあるかもしれません。
他にも自動運転の実現により、「交通事故が起こらない」社会が実現したとしたら、それ自体は社会的には喜ばしいことですが、自動車保険業界にとっては大変なことでしょう。
このように、ある一つの技術の進歩は、一つの業界・産業だけでなく、社会全体に対して大きな影響を及ぼしていきます。
2. 流れに棹をさす
ここ数年、人工知能の進歩が騒がれていますが、それ以外にも「自動運転」だとか、「IoT」だとか「ドローン」だとか「3Dプリンタ」だとか、何やら色々と、これまでの生活を変えてくれそうな面白い技術がたくさん登場しています。
私もエンジニアなのでそれらの技術のニュースを見るのは好きなのですが、そこで感じるのは、私たち一人一人もこういったテクノロジーの進歩の力を借りて、「流れに棹をさしていく」(川の流れに乗って進む船に、棹をさすことでさらに勢いをつける意味から転じて、物事を順調に進める、軌道に乗せる、という意味)必要があるということです。
あと、20年もすれば、完全自動運転により車(や住居)のあり方は変わっているかもしれません。そのような社会では、今現在の「常識」や「当たり前」は通用しなくなっているでしょう。
技術の進歩の流れは「不可逆的」で後ろに戻ることはありません。私たちも最早、テクノロジーに対して良く分からないから近寄らない、という偏見や拒否反応を示している場合ではなくて、ヘビが脱皮するように、どんどん今の「当たり前を脱ぎ捨てていく」ことが求められるのではないかと思います。
テクノロジーの詳細な中身までは理解できなくとも、使いこなせるようにはなっておく、ということです。
それを実現するためには、いつでも「今の当たり前からの脱皮」を許容できるよう、頭を柔らかくしておく必要があるでしょう。
その一方で、これまでの記録に残っている何千年という人類の「歴史」を学ぶこと、そこで積み上げられてきた、人としての道を外さない「あるべき考え方」、「哲学」を学ぶことは、これからも「脱がない芯」として保ち続ける、そのような姿勢も大切だと思うのです。
テクノロジーにしても、哲学にしても、要は「絶えず学び続けなければならないもの」であり、「車の両輪」である、ということですね。
3. まとめ
・自動運転は例えるならば「どこでもドア」。この実現により、
「運転と空間の分離」が進む
・技術進歩に対しては、私たちも「今の当たり前からの脱皮」を続けていく
ことが求められる
・テクノロジーと哲学に対する学びは、私たちが変化の激しい社会で
生きていく上で、「車の両輪」となる
〈今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート〉
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1.この本を読んだ目的、ねらい
・自動運転について、現在の状況を把握する
・自動運転が引き起こす未来の社会の姿に対するヒントを得る
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・自動運転の技術、産業、社会変化に対する知識を
得ることができた。
・自動運転は「どこでもドア」という発想は面白いと感じた。
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・他の技術の進歩が引き起こすこれからの変化についても
考えてみる
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・5年後、10年後の自分の立ち位置がイメージできている
・未来予測が習慣化している
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