読書尚友

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他者とうまく共生していくためには?『限界国家』毛受敏浩 著

 

限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択 (朝日新書)

限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択 (朝日新書)

 

 

 

今日の読書日記は『限界国家』から、「相互交流」と「相互理解」について。

 

 

多様で複雑なヨーロッパの移民政策だが、ごく大まかに四つの段階に分けるとわかりやすい。

 

最初は先述の一時的な「ゲストワーカーの受け入れ」である。

 

第2次世界大戦後の復興期に、ヨーロッパは近隣諸国から短期的な外国人労働者を受け入れ、人手不足に陥った産業に従事させた。

 

この政策は人手不足の解消に役立ちはしたが想定外の副産物をもたらした。それは一時的のつもりであった外国人労働者の定住化であり、また家族の呼び寄せであった。

 

定住化が進んだもののの、多くのヨーロッパ諸国では彼らを自国の国民とは認めず、その結果、法的な保護を受けない中途半端な立場の移民が増加していった。

 

これが現在まで尾を引くヨーロッパの移民問題の原点である。

 

続く第二段階は「同化政策」の時代といえる。

 

政府は定住する外国人に対して権利・義務を持つ移民として正式に認める代わりに、移民に対しては母国の言語や文化を捨てさり、受け入れ国の文化に溶け込むことを求めた。

 

つまり、その国の一員になりきるということである。

 

言ってみれば「郷に入っては郷に従え」である。同化を強要されれば、移民の立場からすれば心理的な反発となりやすい。さらにヨーロッパでは移民の相当程度の割合がイスラム教徒であったため、問題が複雑化した。

 

移民として移住先の国の法律や文化を尊重するのは当然の義務といえる。しかし、宗教や価値観は個人的・内面的なものであり、強制することはできない。その折り合いをどうつけるかという問題に直面したといえる。

 

では第三段階の移民政策はどうか。

 

これは一方的な同化政策の問題の反省に立ち、移民の保持してきた文化や言語などを尊重するというもので「多文化主義」と呼ばれる。

 

多文化主義では、移民に対して権利を認め移住先の社会や文化に適合できるようになるための支援策を進める一方で、移民の文化を尊重し、移民がそれらを保持することを積極的に容認する。

 

移民の文化的背景を尊重する一種、理想主義的な姿勢といえるが、じつはこの寛容な態度が、受け入れ国に溶け込むことを妨げることになった。

 

特定の地域に集住した移民たちは自らコミュニティを作り、受け入れ側のコミュニティと交わろうとしなかったのである。

 

 

とりわけ、社会から疎外された移民がそうした地域に集中することで、麻薬や犯罪の温床となる状況も一部に見られるようになった。

 

 

平行社会を生み出した多文化主義の反省によって、ヨーロッパの自治体を中心に近年、急速に活発化しているのが第四段階の「インターカルチュラル(異文化間交流)」政策だ。

 

欧州評議会の関係者は移民受け入れについて、おそらくインターカルチュラル政策を超えるものはない、これが移民政策の「最終形」ではないかという。

 

インターカルチュラル政策は、多文化主義と二つの点で異なる。一つは、平行社会の反省から移民コミュニティを糸の切れた凧(たこ)としないために、積極的に受け入れ側のコミュニティとの交流を行う点である。

 

二つ目は、移民の文化を地域の活性化に役立てようという視点である。移民がもたらす新たな文化を、自国の文化への脅威と考えるのではなく、むしろ新たなチャンスととらえ、移民のもたらす文化的多様性を地域の革新、創造性、再活性化のテコと考えようとする。

 

 

〈今日のコンテンツ〉

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1. 移民政策

2. バリアと相互理解

3. まとめ

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1. 移民政策

 

人口減少が進む日本の将来において、その解決策の一つとしての「移民受け入れ」について論じた本です。

 

日本の現状から、日本で移民がタブーとされる理由に対する反論、海外諸国の移民受け入れ事情、日本の外国人受け入れ政策や移民政策、日本で暮らす外国人の実情、そして、日本で移民政策を段階的にどのように進めていくのが良いか、まで幅広く説明されています。

 

私個人としては移民受け入れにはどちらかというと消極的なスタンスです。その理由は、テロなど治安の悪化の懸念が拭いきれないというところにあります。

 

また、欧州諸国の移民政策の事例を見ていると、移民政策がうまくいっている国は見当たらないように思うからです。日本はヨーロッパとは違い、キリスト教とイスラム教の対立は発生しないからうまくいく、とは言い切れないと考えます。

 

ただ、日本の人口減少問題は、「移民は絶対反対!」とか、もうそんなことを言ってはいられないところまできているようです。

 

本書は前半部分で、「AIやロボットの導入によって人手不足が一挙に解決すると考えるのは早計だろう」と述べていながら、最終章の提言部分では、「外国人の受け入れは人口減少の最終的な解決策とはなり得ない」、「人材の不足分は、今後はAI(人工知能)等の発展で部分的に補えることも考えられる」とも書かれており、「あれ?結局、人口減少問題の解決策はどっちなの?」と思ってしまうところもあります。

 

しかしながら、海外の移民政策の事情や、日本で暮らす外国人の実例、また「技能実習制度」の抱える問題点など、非常に勉強になる指摘も多数含まれています。

 

今回は、そのような中から、「ヨーロッパの移民政策の4段階」について書かれている箇所を取り上げました。これは今後日本がもし、本格的に移民受け入れ政策を考えていかなければならないとするならば、参考になることだと思ったからです。

 

 

もう一度、見直してみると、

 

第一段階は「ゲストワーカー(出稼ぎ)の受け入れ」です。

 

この段階では、予期していなかった「定住化」という問題が発生しました。

 

第二段階は「同化政策の時代」です。

 

この段階では、母国文化放棄を強要することにより、移住先の国の社会との間に

不協和音が発生しました。

 

例えば、フランスにおいては政教分離の原則から、イスラム教徒の女学生が宗教上の意味を持つベールを公立の学校内で着用することを禁止したことが大きな問題となったそうです。

 

続く第三段階は「多文化主義」です。

 

これは第一段階と第二段階の失敗の反省に基づいた政策で、母国文化を容認したものですが、そうすると、今度は移住先の国と相容れないコミュニティが形成されてしまう「平行社会」が出現しました。

 

欧州諸国ではこの第三段階の状態にある国々がいまだに多いのではないかと思います。

 

そして最後に第四段階として登場するのが、第一段階から第三段階までの失敗を踏まえた「インターカルチュラル(異文化間交流)政策」です。

 

移民の母国の文化を認めつつも積極的に交流することで、相互理解を深めようとするものです。

 

この「相互交流」と「相互理解」という点が大切なのだと思います。

 

生まれ育ったバックグラウンドの違う人間同士が、同じ場所で共生していこうとするならば、それら無しではやっていくことができません。

 

 

2. バリアと相互理解

 

この話は結局のところ、外国の人とともに暮らす、というところまで話を広げて考えなくても、もっと身近な事例で考えることができます。

 

「会社」のような組織でもそうですし、「家族」というさらに小さな単位で考えることもできます。

 

「会社」のような組織では、異なるバックグラウンドや強みを持つ多数の人間が集まり、その会社のビジョンを実現するために力を結集します。

 

「家族」という単位でも、生まれも育ちも違う夫婦がお互いを気遣い尊重しつつ、それぞれの果たすべき役割を果たしていかないと、崩壊してしまう恐れがあります。

 

「会社」にしても「家族」にしても、それをうまく回していくために必要なのは、結局、構成メンバーとの「相互交流」であり「相互理解」なのです。

 

私たちはどうしても、自分の考え方や価値観こそが「常識」で、他者にも「受け入れられて当然のもの」と考えてしまいます。

 

ですが、それは自分以外の人にとっては「異文化」に他なりません。

 

別に外国の人との間でなくても、日本人同士の間であっても、お互いが「異なる文化」を抱えて暮らしています。

 

ですから、「同化政策」のような「価値観の押しつけ」は反発を招きますし、かといって、「相容れない考え方」だから「交わらないようにする」ことを選択すると、それは「平行社会」と同じで、後々に大きな問題を発生させることに繋がるでしょう。

 

それを防ぐには、自分の中に「バリア」を作ってしまっていないか、を意識する必要があります。

 

「価値観の押しつけ」も自分の価値観を守ろうとする「バリア」ですし、「交わらない」ことも、相手の理解を拒絶している「バリア」になっています。

 

自分以外の人は皆、「異文化」を生きています。

 

このことを理解した上で、私たちは自分から積極的に他者との「相互交流」、「相互理解」に努めていくことが、ダイバーシティ(多様性)が声高に叫ばれるようになった昨今の社会では、ますます求められていくでしょう。

 

そしてそれは、これから私たちが、自分の望むものや、望むことを手に入れ、実現していくためにも必要な能力だと思います。

 

結局、私たちは「他者との関係性」の中で生きて、また生かされているからです。

 

 

3. まとめ

 

・ヨーロッパの移民政策には、「ゲストワーカーの受け入れ」、

 「同化政策」、「多文化主義」、「インターカルチュラル

 (異文化間交流)政策」の4段階があり、これらは今後、日本の

 移民政策を考えていく上で参考になる

 

 ・自分以外の人は皆、「異文化」を生きている

 

・「異文化」を生きる人とうまくやっていくためには、

 自分から積極的に「相互交流」と「相互理解」に

 努める必要がある

 

 

〈今日の読書を行動に変えるための
 個人的チャレンジシート〉
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1.この本を読んだ目的、ねらい

 

・日本の人口減少問題への対策の一つとしての

 「移民政策」に対する理解を深める


2. 読んでよかったこと、感じたこと

 

・移民政策の現状の問題点を知ることができた

 

・ヨーロッパの移民政策の4段階と

 日本の技能実習制度の問題点は特に参考になった


3. この本を読んで、自分は今から何をするか

 

・自分の価値観を伝える前に、

 まず相手の価値観を理解しようとすることを心掛ける


4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか

 

・たくさんの「異文化」に触れ、交流を深めることで

 自分のキャパシティが大きくなっている

 

・信頼が積み重なって、お互いの関係に良い影響を

 及ぼしあうことができている

 

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