読書尚友

先人の叡智を自分の行動に落とし込んで、成長と成果に変えていくブログ。焼きたてのトーストにバターを塗るように、日々の学びを薄く薄く伸ばして染み込ませてゆく

人口減少による改革の時代を生き抜くには? 『新・生産性立国論』デービッド・アトキンソン 著

 

日本政府は最近になって、急に生産性改革を訴え始めました。

現状の改革は、主に企業の設備投資を促し、ロボットやAIを活用してイノベーションを起こすことによって、人口減少で生じるさまざまな問題に対処しようとしているように感じます。

 

それはそれで必要ですが、あくまでも供給側の対策であり、十分ではありません。人手不足への対策に止まっているからです。

 

「異次元の金融緩和」ですら、エコノミストが予想していた効果が出ていないことからもわかるように、従来通りの経済対策で解決するほど、日本経済の問題は簡単ではありません。

 

経済学の教科書に書かれている量的緩和政策の効果が出ないのは、日本が直面している需要者の減少という異常事態を想定していないからです。

 

日本は「経済の大前提」が諸外国と全く違うので、海外のように教科書通りの効果が出ないのは当然です。

 

 

人口減少はすでに始まってしまいました。猶予期間はもうありません。即刻、対応しなければなりません。

 

政府は以下の政策を今すぐにでも実施すべきです。

 

(1)国家公務員の新卒採用者のうち、半分を女性にする

 

国は女性活躍を積極的に求めていく姿勢を示していますが、民間企業に女性の活躍の場を求める前に、まず国自身が、中央官庁も含めて女性の採用方針を改め、範を示すべきです。

 

(2)企業の統合を促進して、デフレの根源を断ち切る

 

イノベーションの喚起は大切ですが、現状では企業が多すぎるので、企業の統合促進政策急務です。企業数が過剰なままだと、短期的にはデフレを脱却できても、またすぐにデフレ圧力が復活してしまいます。

 

(3)生産性の低い企業を守るべきではない

 

人口が減少すると、生産性の低い企業には日本人労働者が集まらなくなり、これらの企業は次第になくなります。生産性の低い企業の存在は、ワーキングプアの増加、子どもの貧困、税収の減少の根源です。政府は生産性の低い企業が淘汰されるのを邪魔すべきではありません。特に、生産性の低い企業を延命させることにもなりかねないので、低い賃金で働く移民を多く受け入れるべきではありません。

 

(4)最低賃金を段階的に引き上げる

 

日本の生産性問題の根源の1つは、最低賃金が低すぎることです。実は先進国の最低賃金は、ほぼ同じ水準へと収斂しています。日本の人材の質を考えれば、日本政府は段階的に先進国並みの水準まで引き上げるべきです。

 

 

経済危機が目の前に迫っているというのに、きちんとしたデータを基にした分析もせずに、欧米型資本主義の終焉などといった、非現実的かつ非建設的な感情論にひたるのはいいかげんやめてほしいと切に願います。

 

 

〈今日のコンテンツ〉

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1. この本はどんな本か?

2. ペスト流行後の欧州

3. 企業に求められること

4. まとめ
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1. この本はどんな本か?

 

 これから人口が激減して、経済も縮小していく日本。一体どうすれば、経済規模を維持、発展させていくことができるのでしょうか。元ゴールドマン・サックス証券のアナリストであった著者が、データと数字に基づき、感情論ではなく冷静に現状を示した上で、日本経済復活のための処方箋を示してくれています。それは「生産性を向上させる」ということです。おそらく、この本に書かれている提言を「やらない」という選択肢はもう選べない段階まで日本は来ているのではないかと思います。

 

 

2. ペスト流行後の欧州

 

著者によると、これからの日本と同じように、比較的短期間に人口が激減して、社会が様変わりした事例があるといいます。それが、650年前の1348年~1485年頃にかけて、欧州で30回発生したというペスト(黒死病)の大流行の時代です。

 

このペストの大流行によって欧州の人口が約半分になったそうです。当時の欧州の主力産業は農業でしたが、この結果として、労働者が激減→放置される農地が増加→人手がかかる穀物の栽培からそれほど人手を必要としない畜産や付加価値の高い作物の栽培への移行→生産性が向上、という変化が起こったといいます。

 

また、人口減少により需要者も減少した結果、価格を下げても商品やサービスが売れなくなりました。労働力の価値が高まり、資本家と労働者の関係が逆転して、自営の農家が登場します。封建制度が崩れ、民主主義が始まったのもこの時代だそうです。労働力不足により労働者の労働条件も改善して、可処分所得も増加して大幅に生活水準が向上したため、「労働者の黄金時代」とも呼ばれているとのことです。

 

 

このように「人口減少に直面した欧州の人々は、働き方を変え、必死で「生産性」を向上させた結果、その後の繁栄を手に入れた」という過去の歴史に学ぶとするならば、日本でもこれからの人口減少時代に必要なのは、「変化を楽しみながら『生産性』を持続的に向上させていくこと」だと著者は主張しています。

 

 

3. 企業に求められること

 

著者が日本経済の維持・発展のため、「生産性」を改善するために取り組まねばならないと提言している重点分野は以下の3つです。

 

1.「高品質・低価格」へのこだわりと妄想を捨てる

2.「女性」の生産性を高める

3. 「無能な経営者」を退出させる

 

 

今回は3について考えてみたいと思います。

 

経営者の本来の仕事は「利益を出すこと」ではなく、利益や税金、支払いの金利、社員への給与など全てを含めた「付加価値を高めること」だといいます。付加価値を高めること=GDPの増加ということになります。GDPの増加はそのままその国の発展につながります。

 

 

利益を高めるだけで付加価値を高めないとすると、全体のパイの大きさは変わっていないため、その分、他の構成要素がしわ寄せを受けることになります。例えば社員の給与を低下させる、ということになります。

 

この場合、企業は内部留保が増えて潤ったり、あるいは株主は配当を得られてハッピーかもしれませんが、その陰でそこで働く社員を不幸にしていたりすることになります。これは1990年代からの「失われた20年」と呼ばれている成長が停滞していた時代の多くの日本企業のあり方で、今も続いているものでもあります。

 

このような「増えない取り分」を利害関係者間で調整するのではなく、そもそものパイの大きさ(付加価値)自体を大きくしないと経済は成長しません。ところが、その役目を果たすべきであった経営者はその役割を果たしてきませんでした。

 

 

その理由として述べられているのは、

 

1.株主のガバナンスが弱い

日本国内の株主と経営者の関係がぬるま湯状態である

 

2.労働組合の弱体化

正社員を減らし、アルバイトと非正規雇用を増やして賃金を下げた

 

3.インフレがない

日本は長年のデフレで物価上昇が起こっていないため、給料が毎年上がらなくても

労働者から経営者にプレッシャーをかける真剣さにかける

 

4. 超低金利政策

企業にとっては借金の金利を支払わなくてはならないというプレッシャーが弱い

 

5.輸入が極めて少ない

輸入が多い国の場合、製品やサービスと同時に海外からインフレを輸入する

 

の5点です。

 

企業が生産性を向上させなかった分を国が補てんすることになり、その結果として日本の借金が膨大な額に膨らみました。

 

 

生産性の低い企業には、国の政策によって守られてきたので「たまたま」生き残ってしまっているものが多いといいます。そのような企業は「統廃合」して数を減らしていくか、「プレッシャーをかける」ことによって生産性を向上させ、それができない企業には「退出」を迫るべきだと述べられています。

 

企業にプレッシャーをかけて生産性を高める方法として面白いと感じたのは、今回引用した部分にもありますが、「段階的に最低賃金を引き上げる」というものです。

 

意外なことに「最低賃金」と「生産性」は非常に強い相関関係を持つ、というデータがあるのだそうです。つまり、「最低賃金が高ければ高いほど、生産性も高まる」ということです。

 

賃金を上げると、企業の利益が圧迫されて、将来の雇用を守れなくなる、というのは「企業側、供給者」の理屈です。これが成り立つのは「人口が増えている場合」です。

 

でも、これからの日本は人口が減少していきますので、このロジックは成り立ちません。これからの日本での労働者の価値はむしろ高まる方向にシフトしていきます。

 

そうすると、賃金の安い企業や労働者に過酷な労働条件を突きつける企業は、今以上に労働者から敬遠されるようになり、淘汰されていくようになります。

 

生き残るためには、賃金を上げて優秀な人材を確保しないといけませんし、また賃金を上げたなら、それを維持していくためにも生産性を高めて、より高い「付加価値」を生み出していかないといけません。つまり、最低賃金を上げることが経営者にとって、生産性を高めるためのプレッシャーとして作用することになるのです。

 

国としても、守るべきは企業の社長ではなく、国民の生活であり、長い間、労働者の犠牲の上にあぐらをかいた経営を行っていた企業は排除されてしかるべき、とも述べられています。

 

また、著者は移民による労働力の確保には否定的です。その理由は、現在のGDPを維持するために必要な労働力を確保するには、3400万人という膨大な数の生産年齢人口の移民が必要だからです。これは日本に暮らす5人に2人が移民、ということになって、とても現実的な数ではありません。

 

気がつけばもう、生産性を高めるために変わろうとしないものは生き残れない時代になってしまっているようです。

 

これを「国の政策が悪い」、「無能な経営者が悪い」と他人事のように片付けてしまうのは簡単です。

 

でも他人事にしてしたところで、今後も日本で暮らしていく以上は、私たちの誰もが影響を受けることになります。

 

であるとするならば、私たち一人一人が、例え経営者ではなかったとしても、自分自身や所属する組織の生産性を高め、付加価値を増加させるためにできることを考えて、実行していかないといけないのではないかと思うのです。

 

 

4. まとめ

 

・生産性を高める必要がある3つの領域は、

 「高品質、低価格」の妄想

 「女性」

 「経営者」 

 

・「最低賃金」と「生産性」は非常に強い相関関係を持つ

 

・国や企業に依存せずに、個人や組織として生産性を高めるために

 できることを考え、実行していくことが大切

 

 

〈今日の読書を行動に変えるための
 個人的チャレンジシート〉
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1.この本を読んだ目的、ねらい

 

・日本の国家としてのGDPや個人としての生産性を

 高める方法をまなぶ

 


2. 読んでよかったこと、感じたこと

 

・客観的なデータや数字に基づいて議論が展開されており、

 納得性が高い

 

・日本の生産性の低さに危機感を感じた

 


3. この本を読んで、自分は今から何をするか

 

・個人としての生産性、組織としての生産性を

 継続して高めていく

 


4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか

 

・変化を楽しめるようになっている

 

・共に変化を起こす仲間の輪が広がっている

 

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